トルコショック

英語: Turkey Shock
分類: 通貨混乱

トルコショック(Turkey Shock)は、「トルコ通貨危機(Turkish currency crisis)」とも呼ばれ、2018年8月にトルコ共和国の通貨リラ(トルコリラ)の急落に発した通貨危機をいいます。

米国人牧師の拘束を巡る外交問題が直接のきっかけとなった出来事で、米国がトルコに対して経済制裁を発動したことにより、トルコリラが一斉に売られて急落し、それが他の新興国や欧州などへも波及し、世界のマーケットを大きく揺るがしました(トルコリラは一時対ドルで2割急落)。

ここでは、2018年から2021年にかけて起こった「トルコショック」について、簡単にまとめてみました。

目次:コンテンツ構成

トルコショックの世界的影響

新興国の多くは、リーマンショック以降、世界的な金融緩和で膨張した対外債務に脆さを抱えており、通貨安が進むと輸入物価の高騰や外貨建て債務の返済負担の増大に晒されやすくなっていました。

そういった状況の中、中東の地域大国であるトルコ経済の混乱は、他の新興国の通貨(アルゼンチンペソ、ブラジルレアル、南アフリカランド、インドルピー、インドネシアルピア・・・)にも売りが波及し、またトルコと経済・金融の繋がりが深い欧州の通貨や株式などにも波及しました。

また、日本においては、高金利のトルコリラは、外国為替証拠金取引(FX)やトルコ債、トルコ投信などの投資家に深刻な影響を与え、特にFXについては、空前の急落によりロスカットで損失を被った人も多かったようです(通貨以外に、株式市場も下落)。

トルコショックの主なポイント

トルコショックの主なポイントとして、以下が挙げられます。

◎トルコは海外マネーに頼る慢性的な経常赤字国で、為替介入余力が乏しいことも通貨安を加速させる一因となった。また、通貨急落は対外債務返済や外国投資呼込の障害となり、それがさらに実体経済を冷え込ませるという悪循環を招く恐れがあった(特に民間債務に懸念が大きかった)。

◎トルコのエルドアン大統領が金融政策への介入姿勢を強めていたことが混乱の一因となっており、中央銀行がインフレ抑制や通貨防衛のために必要な利上げに動けずにいた(大統領が利上げを嫌っていたため)。

◎米国のトランプ大統領の強硬な対応(政治と絡めた経済制裁)も問題を複雑化させ、これに対してトルコも対抗措置を取るなど制裁の応酬に発展した(米国第一主義が世界を混乱させ、欧州や中国などとも問題が生じており、仲介役が不在であった)。

◎当時、長く続いた世界的な金融緩和により、新興国の多くが債務膨張という問題を抱えた上、さらに米国の利上げ路線に伴うドル高の反動で資金が流出しやすくなっており、世界的に通貨危機が伝播しやすい状況下にあった。

◎米国もトルコもNATOの加盟国であり、両国間の亀裂は中東で最大規模のトルコ経済にダメージを与え、トルコのロシアやイラン、中国への接近など、中東地域の不安定化や安全保障の問題を招く恐れがあった。

トルコショックの主な経緯

トルコショックの主な経緯は、以下のようになっています。

|2016年10月|
クーデター未遂事件に関与したとして、米国人牧師をトルコ当局が拘束。

|2018年7月26日|
トランプ大統領がトルコに対して、牧師を開放しなければ「大規模な制裁」を行うと警告。

|2018年8月1日|
米政府がトルコの法相と内相の米国内資産凍結など制裁を発動。

|2018年8月4日|
トルコ政府が報復として、米司法長官ら2閣僚のトルコ内資産凍結を発表。

|2018年8月10日|
トランプ大統領が制裁として、トルコの鉄鋼・アルミニウムの関税引上げを表明。これにより、トルコリラの対ドルレートが1ドル=6リラ台後半に急落し、世界のマーケットを揺るがす。

|2018年8月13日|
トルコリラの対ドルレートが1ドル=7リラ台前半となり、史上最安値更新(トルコ中銀は銀行の資金繰り支援策を発表)。通貨安が波及したアルゼンチンが通貨防衛で利上げ。

|2018年8月14日|
トルコリラは下げが一服し、レート(値)を少し戻す。エルドアン大統領が「米国製電化製品のボイコット」を表明。

|2018年8月15日|
トルコが牧師開放を拒否すると共に、一部製品の対米関税の引上げを発表。通貨安が波及したインドネシアが通貨防衛で利上げ。

|2018年8月16日|
中銀のステルス利上げ(流動性引き締め)が奏功し、トルコリラが3日続伸で約20%回復。

|2018年8月20日|
中銀はカタールと通貨スワップ協定を17日に締結したと発表。

|2018年9月13日|
中銀は物価安定のため、強力な金融引き締めとして、政策金利を6.25%引き上げ、年24%とした。

|2018年9月20日|
中期経済計画で、リラ下落や物価上昇を抑えるため、新規インフラ開発を事実上凍結。

|2018年10月3日|
9月のCPIが前年同月比24.5%上昇、過去15年で最悪水準。

|2018年10月12日|
トルコの裁判所が米国人牧師の釈放を決定。

|2019年3月22日|
米国との軋轢などで、対ドルで一時、前日比6.5%急落(昨年の下落以降で最大の下げを記録)。

|2019年4月25日|
利下げ予想強まり、対ドルで一時、前日比1.8%下落(その後、イスタンブール市長選の再選で、さらに下落)。

|2019年7月25日|
中銀が4.25%利下げし、政策金利は19.75%。インフレが落ち着き 景気刺激を狙ったものであるが、背後には政治的圧力があった。その後も利下げは続き、2020年6月には政策金利は8.00%となるが、2020年7月以降は利上げに転じる(8.25%→12.00%→15.00%)。

|2020年9月29日|
アルメニアとアゼルバイジャン(トルコの友好国)の軍事衝突をきっかけに、1ドル=7.85リラ台となり、史上最安値更新。

|2020年10月26日|
ロシア製地対空ミサイル「S400」の試射による地政学的緊張から、1ドル=8リラ台となり、史上最安値更新。

|2020年11月19日|
中銀の新総裁が4.75%利上げし、政策金利は15.00%。これにより、対ドルで約2.5%上昇し、市場では一定の安心感が広がった。

|2021年11月23日|
エルドアン大統領が演説で自身の金融緩和政策を称賛する一方、金融引き締めを敵視し、「経済的な独立戦争に勝利する」と宣言したことにより、対ドルで一時、前日比15%安の1ドル=13リラ台半ばまで下落した(1日の最大下落幅は2018年のトルコショックを超えた)。年初からの下落幅は4割を超え、11月以降だけでも3割近くリラ安が進んだ。

<エルドアン大統領の金融緩和政策>
「金利は悪だ」と考え、「金利が下がればインフレ率は下がる」という経済学とは逆の主張を展開。高インフレが続く中、9月-11月の政策決定会合で3回連続の利下げ(計4%の引下げ)を強いた。

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