親子上場

読み方: おやこじょうじょう
分類: 上場・非上場

親子上場は、親会社と子会社がそれぞれ証券取引所に上場していることをいいます。

欧米ではあまり見られない慣行で、日本では1980年代から2000年代まで上場基準の緩和や企業側のメリットなどで増加傾向にありましたが、一方でコーポレートガバナンスや利益相反などの問題も時として起こっており、昨今では、取引所や行政の側ではより厳格な方向へと認識が変わってきています。

ここでは、親子上場の概要について、簡単にまとめてみました。

目次:コンテンツ構成

親子上場の目的(メリット)

親子上場は、日本独特の慣行で、欧米等の諸外国と比較して、その比率が際立っており、これまでに以下のような目的(メリット)で実施されてきました。

親会社が子会社の株式を市場で売却することで、資金調達をすることができる。また、上場した子会社の時価総額(企業価値)が高まれば、親会社の企業価値も高まる。

子会社は上場することで、経営の自由度が高まると共に、市場から資金調達をすることができる。また、世間的に知名度が上がり、ブランド価値の向上や従業員のモチベーション向上、有利な人材採用なども図れる。

なお、少数株主に対する権利が強い欧米等では、親会社の株主と子会社の株主の利益が相反した場合、訴訟になるリスクもあることから、親子上場という概念は殆どありません。

親子上場の問題点と見直し

親子上場は、日本独特の慣行で、実施した(する)企業側にメリットがある一方で、以下のような問題点が指摘されています。

◎子会社の新規上場によって、支配力を持つ大株主としての親会社と新たに株主となった少数株主による新たなガバナンス構造が生み出される。

◎上場子会社に対する議決権を背景として、取引条件の設定等を通じて、親会社の利益を優先し、子会社の少数株主の利益が考慮されないという「利益相反問題」が発生する恐れがある。

◎親会社がグループ経営の視点から図ろうとする「全体最適」と、子会社独自の「部分最適」を一致させることは容易ではない。また、上場する親子間での事業シナジーの追求と利益相反管理を共に行うことは非効率である。

◎親会社が子会社も含めた企業価値を裏づけに上場時に資金を集め、さらに子会社が上場した際にも再び資金を得ることで、資金の二重取りが行われる可能性がある(新興企業に多い)。

上記のような問題点に対して、昨今では、株式のグローバル投資が進む中、海外投資家等にも指摘され、また日本独特の慣行として放置できなくなり、取引所や行政の側ではより厳格な方向へと認識が変わってきています。

◎2007年6月に東京証券取引所は「親会社を有する会社の上場に対する当取引所の考え方について」を公表し、子会社上場を禁止しないが、望ましい資本政策とは言い切れない以上、株主の権利等への配慮、積極的なアカウンタビリティの遂行が望まれるという趣旨の見解を示している。

◎2019年6月に政府が「成長戦略実行計画」の中で、親子上場の問題を取り上げ、経済産業省が「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」を公表した。

◎2020年1月から、東京証券取引所においても「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」が論点や対応方針の検討を開始した。

親子上場の実施例

現在、親子上場を実施している代表的な企業には、以下のようなものがあります。

|トヨタグループ|
トヨタ自動車(1949)、日野自動車(1949)

|キリングループ|
キリンホールディングス(1949)、協和キリン(1949)

|信越化学グループ|
信越化学工業(1949)、信越ポリマー(1983)

|住友化学グループ|
住友化学(1949)、大日本住友製薬(1949)

|キヤノングループ|
キヤノン(1949)、キヤノン電子(1981)、キヤノンマーケティングジャパン(1981)

|イオングループ|
イオン(1974)、イオンフィナンシャルサービス(1996)、イオンモール(2002)、ウエルシアホールディングス(2008)、ユナイテッド・スーパーマーケットHD(2015)

|NTTグループ|
日本電信電話(1987)、NTTデータ(1995)

|ソフトバンクグループ|
ソフトバンクグループ(1998)、ソフトバンク(2018)、Zホールディングス(1996)

|電通グループ|
電通グループ(2001)、電通国際情報サービス(2000)

|GMOインターネットグループ|
GMOインターネット(2005)、GMOグローバルサインHD(2005)、GMOペイメントゲートウェイ(2008)、GMOフィナンシャルホールディングス(2015)

|日本郵政グループ|
日本郵政(2015)、ゆうちょ銀行(2015)、かんぽ生命保険(2015)

親子上場の解消例

長年、親子上場を実施した後、親子上場を解消した代表的な企業には、以下のようなものがあります。

◎2020年にNTTがNTTドコモ(1998-2020)を完全子会社化。

◎2020年に日立製作所が日立ハイテク(1971-2020)を完全子会社化。

◎2020年にソニーグループがソニーフィナンシャルホールディングス(2007-2020)を完全子会社化。

◎2017年に大林組が大林道路(1971-2017)を完全子会社化。

◎2016年にトヨタ自動車がダイハツ工業(1949-2016)を完全子会社化。

◎2014年にイオンがダイエー(1972-2014)を完全子会社化。

◎2013年に東急不動産が東急リバブル(1999-2013)を完全子会社化。

◎2012年にトヨタ自動車がトヨタ車体(1949-2011)を完全子会社化。

◎2011年にみずほフィナンシャルグループがみずほ信託銀行(1949-2011)を完全子会社化。

◎2011年にパナソニックがパナソニック電工(1951-2011)を完全子会社化。

◎2008年に三菱UFJフィナンシャル・グループが三菱UFJニコス(1961-2008)を完全子会社化。

◎2008年にアサヒビール(現・アサヒグループホールディングス)がアサヒ飲料(1999-2008)を完全子会社。

◎2006年にキリンビール(現・キリンホールディングス)がキリンビバレッジ(1995-2006)を完全子会社。

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