アジア通貨危機

読み方: あじあつうかきき
英語: Asian Financial Crisis
分類: 金融危機

アジア通貨危機は、1997年にタイを震源として、アジア諸国に波及して起こった深刻な金融危機をいいます。

その発端は、1997年7月2日に投機的なバーツ売りの圧力に屈したタイが固定相場制を放棄したことであり、これを契機にインドネシアやマレーシア、韓国などアジア諸国へ危機が飛び火し、急激な資本流出や通貨暴落を招きました。

20世紀の終わりに起こった「アジア通貨危機」は、それまでに途上国や新興国が経験した危機の中では最大級のものであり、アジア域内から資本が大規模に流出し、深刻な経済危機を発生させることになりました。また、この危機に対する各国の政策が適格さを欠いたことも事態を悪化させることになりました。

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アジア通貨危機の背景

1990年代は、アジア経済の良好なファンダメンタルズへの楽観的な機運が広がり、先進国からの資金流入がアジア諸国へ拡大する一方で、アジア諸国の多くが事実上の固定相場制を採用しており、為替変動リスクが過小評価される傾向にありました。

当時、アジア諸国は資本規制の自由化を進め、国内の長期の設備投資資金を海外からの資金調達で賄う一方で、その多くは短期のドル建て債務であり、期間と為替の両方でミスマッチが発生していました。さらに、1995年以降のドル高(米国のドル高政策)は、ドルペッグ制アジア通貨を実効レートで割高とし、また多くの国の経常収支は赤字基調で推移していました。

このようなミスマッチや問題に対して、欧米のヘッジファンドなどの投機筋が着目し、投機の対象として「アジア通貨の空売り」が仕掛けられ、1997年後半から1998年にかけて、タイバーツ売りに端を発したアジア通貨危機が発生しました(日本や欧米などの株式市場も一時急落した)。

アジア通貨危機

アジア通貨危機の状況

アジア通貨危機は、狭義には、1997年7月のタイバーツの暴落を皮切りに、インドネシアやマレーシア、フィリピン、韓国など、アジア各国を瞬く間に襲った一連の通貨暴落の危機を指します。また、広義には、これによって引き起こされた金融危機を含む、深刻な経済危機を指します。

当時、アジアの多くの国が自国通貨の大幅な下落圧力(減価)にさらされた結果、事実上の対米ドルの固定相場制の放棄を余儀なくされ、為替レートが急激に下落すると共に、経済が危機的状況となりました。特にタイとインドネシアと韓国は、通貨暴落の他に、対外債務の返済不能、金融システム危機、巨額の不良債権発生、深刻な景気後退などに陥り、経済に大きな打撃を受け、IMF管理に入りました。

なお、日本に関しては、バブル崩壊による不良債権に加え、アジア向け融資の焦げ付きが発生し、また緊縮財政とタイミングが重なった結果、1997-1998年の金融危機の一つの引き金となりました。

◎1997年6月末から約半年の間に、インドネシア・ルピアが81%、タイ・バーツが56%、韓国ウォンが55%、マレーシア・リンギが46%、フィリピン・ペソが42%と急激に通貨価値が下落した。

◎1998年の通貨危機に直面した国の実質経済成長率は、タイが-10.8%、インドネシアが-13.1%、マレーシアが-7.4%、韓国が-5.5%と軒並みマイナスに陥り、景気は極端に冷え込んだ。

アジア通貨危機の対応

当初、アジア通貨危機を終息させる上で、国際通貨基金(IMF)は、タイに続き、インドネシアや韓国に対して支援策を実施しました。

しかしながら、経常収支の改善、財政収支の改善、インフレの抑制、金融の引き締め、外貨準備の積み増し、金融改革の実施など「高金利・緊縮財政」を基本とする構造調整プログラムだけでは、急激な資本流出により外貨準備が不足し、短期的な国際流動性が枯渇する危機を収拾することはできませんでした。

最終的には、IMFや世界銀行アジア開発銀行などの国際機関の協調融資により終息に向かっていきましたが、この危機を契機にIMFを補完する地域金融協力体制の必要性が認識され、後にチェンマイ・イニシアティブが構築されました。

アジア通貨危機の推移

1997年にタイから始まったアジア通貨危機は、近隣のアジア諸国に多大な影響を及ぼしただけではなく、世界の投資家に新興国市場への不信感を増大させ、質への逃避を促しました。また、これにより、翌年の1998年にロシア危機ブラジル危機などを引き起こし、世界へと伝播していきました。

・1997年05月:ヘッジファンドがバーツを売り浴びせる動きに出て、タイ中銀は対抗
・1997年07月:タイが空売り攻勢に負け、変動相場制に移行。近隣国にも空売り攻勢が仕掛けられる
・1997年08月:インドネシアが空売り攻勢に負け、変動相場制に移行
・1997年10月:通貨危機が香港や韓国などにも拡大
・1997年11月:韓国で財閥の連続倒産を契機にウォンが暴落
・1998年01月:12月下旬から1月にかけ、各通貨の下落は底を打つ
・1998年08月:ロシアのルーブルが暴落し、通貨を切り下げ

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