財形貯蓄制度とは何か?

財形貯蓄制度とは、勤労者(従業員)が財形貯蓄取扱機関と契約を締結し、事業主(勤務先)が従業員に代わって賃金から天引きする方法により貯蓄を行う制度をいいます。

財形制度の一つで、結婚やマイホーム、教育、老後など、従業員のライフイベントで必要となる資金づくりを支援するもので、現在、「一般財形貯蓄」と「財形住宅貯蓄」と「財形年金貯蓄」の3つがあります。

ここでは、知っているようでいて意外と知らない、財形貯蓄制度の概要について、簡単にまとめてみました。

目次:コンテンツ構成

財形貯蓄制度の基本事項について

財形貯蓄制度を理解する上で、まずは基本事項を押さえておきましょう。

財形貯蓄の位置づけ

財形貯蓄は、「財形持家融資制度」、「財形給付金制度・財形基金制度」と共に、財形制度の三本柱の一つであると共に、財形制度の中核となっています。

<財形制度とは?>

勤労者財産形成促進法に基づき、勤労者が退職後の生活の安定、住宅の取得、その他の財産形成の目的として貯蓄を行い、事業主及び国がそれを援助する制度。

財形貯蓄の対象者

財形貯蓄制度の対象者は、職業の種類を問わず、「事業主に雇用される方(勤労者)」となっています。また、勤労者とは、雇用労働者の全てを含み、会社員だけでなく、団体職員、国家公務員、地方公務員、船員なども含まれます。

一般に財形貯蓄制度は、勤めている会社等が導入していなければ、いくら利用したいと思っても利用することはできません。そのため、必ずしも全ての勤労者の方が利用できるというものではなく、また自営業者や役員(役員報酬のみの専従)の方は本制度の対象外となっています。

なお、アルバイトやパート、派遣社員の方でも、継続して雇用が見込まれる場合は、積立期間・要件を守って契約を締結すれば、財形貯蓄をすることができます。

財形貯蓄の取扱金融機関

財形貯蓄は、勤めている会社等が所定の手続きを行い、財形貯蓄を取り扱っている金融機関と契約することで行うことができます。

現在、都市銀行や地方銀行、第二地方銀行、信託銀行、ゆうちょ銀行、信用金庫、労働金庫、信用協同組合、農林中央金庫、商工組合中央金庫、農業協同組合・同連合会(JA)、漁業協同組合・同連合会、水産加工業協同組合・同連合会、証券会社、生命保険会社、損害保険会社などが取り扱っています。

財形貯蓄の対象商品

財形貯蓄の対象商品(積立商品)には、現在、以下のようなものがあり、また利率(金利)については、預け入れる商品によって異なります。

・銀行等の商品
-定期預金、定期貯金など
・信託銀行の商品
-合同運用信託
・証券会社の商品
-公社債、投資信託など
・生命保険会社の商品
-積立保険
・損害保険会社の商品
-積立傷害保険

財形貯蓄の仕組み

財形貯蓄では、毎月、事業主によって天引きされた賃金は、事業主が勤労者に代わって、財形貯蓄取扱金融機関に払い込みます。

一方で、財形貯蓄取扱金融機関では、個人ごとに財形貯蓄口座(一般、住宅、年金)が管理されます。また、勤労者(預入者)は、残高通知書やインターネットサービスなどで、預入残高を適宜確認できます(残高確認の方法は勤務先により異なる)。

なお、天引きされる賃金については、原則として、労働基準法上の賃金の範囲と同様となっています。

<給与天引きの対象となる賃金>

勤労の対価として事業主が勤労者に支払うもので、給与や諸手当、ボーナスなど、すべて賃金の範囲に含まれる。ただし、勤労の対象とみなされない一部の恩恵的・福利厚生的な給与は除かれる。

財形貯蓄制度のメリットとデメリット

財形貯蓄制度(財形貯蓄)は、1971年に制定されて以来、日本で長く親しまれてきた制度ですが、一方で勤労者と事業主の双方において、以下のようなメリットとデメリットがあります。

財形貯蓄の主なメリット

<勤労者のメリット>

◎賃金からの控除(天引)という仕組みのため、手間をかけずに着実に資産形成(財産づくり)ができる。

◎財形年金と財形住宅を合わせて、元利合計550万円(財形年金のうち、郵便貯金、生命保険・損害保険の保険料、生命共済の共済掛金、簡易保険の掛金等に係るものにあっては払込ベースで385万円)から生ずる利子等が非課税とされる。

◎財形年金については、年金の支払いが終わるまで非課税措置が継続され、老後生活の安定に役立つ。

◎財形貯蓄の残高に応じた「財形持家融資制度」を利用することができる。

◎財形給付金制度や財形基金制度を採用している企業等においては、その受益者等となる資格が得られる。

<事業者のメリット>

◎福利厚生の定番の一つであり、勤労者(従業員)の定着性を高め、人材の確保にも効果的である。

◎従業員の貯蓄意識を喚起し、生活基盤(家計面)の安定につながるほか、勤労意欲も高まる。

◎大きな負担を負うことなく、融資制度の充実を図ることができる。

財形貯蓄の主なデメリット

<勤労者のデメリット>

◎払い出しの際には、書類の提出など手間がかかる。

◎投資型商品が用意されていないので、インフレ(物価上昇)には対応できず、また高いリターン(運用収益)も期待できず、大きく殖やすのには向いていない。

<事業者のデメリット>

◎事務手続きなどで、経常的に負担(コスト)がかかる。

一般財形貯蓄の概要について

一般財形貯蓄は、「勤労者財産形成貯蓄」とも言い、勤労者の方が取扱金融機関と契約を結んで、3年以上の期間にわたって、定期的(毎月・賞与期)に賃金からの控除(天引)により、事業主を通じて積み立てていく、目的を問わない使途自由な財形貯蓄をいいます。

一般財形の契約

一般財形は、一人で複数の契約が可能で、また貯蓄歴3年以上に限って、勤務先が指定する他の取扱機関への預け替えが認められています。

一般財形の資金使途

一般財形は、財形年金や財形住宅とは異なり、貯蓄目的の制限はなく、原則自由です。そのため、自動車購入や旅行、結婚、出産、教育などのライフイベントから、病気やケガ、介護、引越しなどの不意の出費まで、幅広い目的に使うことができます。

一般財形の積立期間と払い出し

一般財形は、原則として、3年以上にわたって定期的に積み立てる必要がありますが、貯蓄開始から1年経過した後は、払い出しが自由となっています。また、払い出しの際には、通常、勤務先での申請が必要となり、この時に所定の書類をいくつか提出することになります。

一般財形の課税措置

一般財形の税金面は、財形年金や財形住宅とは異なり、特に非課税措置はなく、一律20%(国税15%、地方税5%)の源泉分離課税です。また、2013年1月1日から2037年12月31日までは、国税に復興特別所得税(0.315%)が付加されます。

財形住宅貯蓄の概要について

財形住宅貯蓄は、「勤労者財産形成住宅貯蓄」とも言い、55歳未満の勤労者の方が金融機関などと契約を結んで、5年以上の期間にわたって、定期的(毎月・賞与期)に賃金からの控除(天引)により、事業主を通じて積み立てていく、持家取得を目的とした財形貯蓄をいいます。

財形住宅の契約

財形住宅は、一人一契約のみとなっており、また一般財形とは異なり、預け替えはできません。

財形住宅の資金使途

財形住宅は、資金使途が自由な一般財形とは異なり、マイホームの建設(一戸建て)や購入(新築・中古を問わず、一戸建て・マンション)、リフォーム(工事費75万円超)など、住まい(持ち家)の資金づくりを目的としたものとなっています。

財形住宅の積立期間と払い出し

財形住宅は、原則として、5年以上にわたって定期的に積み立てる必要があります。また、所定のマイホーム資金として払い出す場合は、「財形年金」と合わせて、貯蓄残高550万円まで利子等に税金がかかりませんが、一方で要件を満たさない払い出しの場合は、利子等に課税されます。

※住宅資金として使う場合は、5年以内でも非課税。

財形住宅の非課税措置

財形住宅は、財形年金と合算で、元利合計(払込累計)で550万円まで利子等に税金がかかりませんが、一方で目的外解約時には、以下のようにペナルティーとして課税されます。

・預貯金の場合、払い出しが行われた月から5年間さかのぼり、この間に生じた利子の全てに課税。
・保険などの場合、解約時に一括して利子(差益)が生じるため、全期間の利子(差益)に課税。

財形年金貯蓄の概要について

財形年金貯蓄は、「勤労者財産形成年金貯蓄」とも言い、55歳未満の勤労者の方が取扱金融機関と契約を結んで、5年以上の期間に渡って、定期的(毎月・賞与期)に賃金からの控除(天引)により、事業主を通じて積み立て、60歳以降の契約所定の時期から5年以上の期間に渡って、年金として支払いを受けることを目的とした財形貯蓄をいいます。

財形年金の契約

財形年金は、一人一契約のみとなっており、また一般財形とは異なり、預け替えはできません。

財形年金の資金使途

財形年金は、資金使途が自由な一般財形とは異なり、60歳以降に年金として受け取るための「老後資金」を目的としています。

財形年金の積立期間と払い出し

財形年金は、原則として、5年以上にわたって定期的に積み立てる必要があります。また、60歳以降に年金として受け取る(払い出す)場合は、所定の金額まで非課税となりますが、一方で年金以外の払い出しを行うと要件違反で非課税措置がなくなり、残額は財形年金と認められません。

なお、特例として、災害や疾病、寡婦、寡夫などの理由による払い出しは、一定の条件を満たす場合、非課税となります。

財形年金の受取期間と据置期間

財形年金は、満60歳以降に年金として受け取ることを目的としており、現在、受取期間と据置期間は以下のようになっています。

|年金の受取期間|
満60歳以降に5年以上20年以内(保険商品の場合、終身受取も可能)。

|年金の据置期間|
積立終了から年金受取開始まで、5年以内の据置期間を設定することが可能。

財形年金の非課税措置

財形年金は、財形住宅と合算で、以下のような非課税措置がありますが、一方で目的外解約時には、ペナルティーとして課税されます。

|預貯金型商品の場合|
元本(預入額+元加利息)550万円まで利子等非課税。ペナルティーの場合、5年遡及課税で過去5年間(60カ月)の利子に課税。

|保険型商品の場合|
払込額(払込保険料累計額)385万円まで利子差益非課税。ペナルティーの場合、解約返戻金や積立配当金の差益の全てが一時所得として総合課税。

iFinancial TV